バイオリンと外宇宙の話 vol.2

町田樹さん「あなたに逢いたくて」 あるいは呼び交わし膨らむ夢空間

フィギュアスケートの話題です〜。

町田樹さんの新プログラムを見るべく、プリンスアイスワールド横浜公演、5月のGWの最後の二日間行って来ました〜!

実はこの横浜公演、予定をやりくりすれば初日も行けたのですが、初プログラムを何の予備知識無しに見る勇気が、チキンな私にはなくて(笑)
…まあ、バレエでもなんでもある程度予習してから行く派なんですがね。
4月30日、町田くん作品「初演」時は、家でパソコンにはりついてTwitter情報をチェックしておりました。
ちなみに私、フィギュアスケートの情報収集用にTwitter別アカウント持ってましてね〜。どうでも良いことですが。

去年のシューベルト「継ぐ者」が大好評だったこと、今までの町田くんの数々の発言から「シンフォニック・スケーティング」を極めるのだろうと、私を含めほとんどの人が今回のプログラムも「クラシック作品またはインストゥルメンタル曲」を予想していたと思います。

ところが何と…
新プログラムは何と…

松田聖子さんの「あなたに逢いたくて」ヴォーカル入りフルバージョン!!

一報を見た時には、まさかの驚き、TwitterのTLが沸騰しました。(^^;
せ、聖子ちゃん〜〜!?( ̄□ ̄;)←マジでこんな顔してた自分。

こんな私でもサビの部分は知っている超有名歌謡曲。
何で女性ヴォーカルをわざわざ選んだの!?
プリンスチームの今年のテーマが「J-pop」なので、それに寄せたのかと思ったけれど、偶然の一致らしい。
いや〜驚いたのなんの。

で、期待半分不安半分、現地鑑賞してきたのですが、不安は全くの杞憂でした。
素晴らしかった!!
今まで町田くん自身の振付作品四つを見ましたが、間違いなく最高傑作と言えると思います。

まず気づいたことは、このプログラムにおいては、音楽とダンス(スケーター)との関係性が「普通」と違っている、ということです。

「普通」であれば、音楽はダンサーの内で鳴っていることを前提に音を表現であらわす。また普通は女性なら女性ボーカルで。男性なら男性ボーカルで。
実際、この公演のプリンスチームのプログラム「地上の星」も、中島みゆきさんのヴォーカルを、(男性スケーターが滑るということで?)わざわざ男性歌唱のヴォーカルにカバーしたものを使っていました。

「あなたに逢いたくて」のプログラムの町田くんの演じる「あなた」は、自分の身体の外から聞こえてくる音に反応してダンスする。
いわば、受話器の向こうから聞こえてきた「聖子ちゃんのヴォーカル」にたいして、送話器で「町田くんのダンス」が返答しているような関係です。
いや、例えが悪いかな(^^;
会場で鑑賞した時の私の印象は、聖子ちゃんのヴォーカルはスポットライトと共にはるか天上から降りてきて、厚い雲の下、地上で生身の町田くんのスケートが答えているような感じでした。

この音楽とダンスの「ズレ」、聖子ちゃんの平明なヴォーカルスタイルと、町田スタイルの濃厚な振付との「ズレ」が、ある意味アヴァンギャルドな面白さを持ち、実際には町田くん一人の演技なのに二人芝居を見るような、何度も繰り返し見たくなる中毒性のある作品になっていると思います。

そして、プログラム中、音楽と詩が一番盛り上がるところはダンス振付的には引き(*注1)、逆に詩がない所(間奏)では一歩出るなど、足し引きを熟慮されている。
歌詞には応えるように、音楽の伴奏やベース音にはスケートの足で合わせるような緻密なプログラム。

私はベジャールのバレエ作品が好きなのでつい比較してしまいますが、ベジャールの作品でも「音楽とダンサーとの関係」の「ズレ」を意図したものがありました。
マーラーの交響曲第3番の女性ヴォーカルを使ったジョルジュ・ドンのダンスなどですが、こういう例は他のベジャール作品や、コンテンポラリーダンスの作品にいくつもあると思います。

町田くんがすごいのは、男子シングルフィギュアスケートというカテゴライズの中で、それを(おそらく)初めてやったこと!
また、誰でも知っている松田聖子の超有名曲でそれをやったこと。

小芝居的説明的でなく、「ダンス作品」として表現し、照明の力も使いながらトータルにまとめ上げた発想力と演出力と度胸。
自分の過去の作品を模倣しない未来主義。
いやいや、感服しました。

プリンスチームがJ-popというテーマを掲げながら、「日本語の意味を薄める」ため器楽曲や英語のカバー曲を使っていたのに対し、町田くんのプログラムは大変強烈でした。聖子ちゃんの曲の選曲も、「意味を薄めるための英語」が入っていない歌詞とか、ちゃんと聞き取れて意味の伝わる日本語とか、いろいろ彼なりの選定基準があったんでしょうね。(*注2)

彼が自分の言葉で作品のプログラムノーツを書いているのも、ベジャールを彷彿させて、私的には胸が一杯になります。(*注3)

公式サイトでは今回のプログラムを「相聞歌」「感情はスピードにのせて」「母語の詩を滑る」「夢は呼び交わす」という、いつもより分かりやすくキーワードをあげてくれています。

私は古文古典が大の苦手で、思わず「相聞歌」をググりました。(^^;
なるほど、男女の恋の歌のやり取りなのですね〜。
古文の授業で、「万葉集の時代は、自分の夢に相手が出てくるのは、相手が自分を強く想っているからだと考えられていた」って習ったことを思い出します。
また逆に、「相手を強く思えば相手の夢の中で逢瀬がかなう」ともあります。
この町田くんのプログラム、夢の中で「わたし(聖子ちゃん)」と「あなた(町田くん)」の「もう一度だけ会いたい」「もう一度だけ逢瀬をかなえたい」という双方の願いが結実したわけですね。
まさに「夢は呼び交わす」!

原曲は失恋ソングなのに不思議と温かい気持ちが湧いてくるのは、コンセプトをしっかり持って創作を行っている町田くんの力量に他なりません。
町田くんは「二次創作」という言い方をしていますが、ベジャールは彼の言葉で「音楽を、空間を(ダンスによって)膨らませる」という表現をしていたと記憶しています。

フィギュアスケートはもともとスポーツ競技です。
このフィギュアスケートをアイスショーとして、バレエや演劇、オペラと同じような芸術性と大衆性を併せ持つ「町田くんの目指すエンターテイメント」として位置づけていくのは、大変な壁があることでしょう。
そもそも演者と役柄(role)の関係性すらも曖昧な、このフィギュアスケートの世界において、町田くんは現役時代から役柄を演じることに徹底していました。
彼の役柄への没入した演技力や舞台人としてのメイクは、時として誤解を生み出していたけれど、今回のプリンスのショーでの町田くんへのスタンディングオベーションの凄さを見ていると、誰にでも受け入れられる「町田スタイル」が確立されたと言っていいように思います。私は、彼の目指すフィギュアスケートの可能性を信じてついていこう!と改めて感じました。

つらつらと書き連ねましたが、小難しいこと考えなくても、聖子ちゃんの歌のサビのところで町田くんのスケートがぐんぐんスピード出して、イナバウアー!てところで「おおお」と十分魅せられるプログラムです♪
いやもう、楽しいGWごちそうさまでした。
大学院ではスポーツマネジメントを勉強し、去年暮れにすでに学会発表を果たした町田くんですが、その学業と目指す作品作りがともに将来につながりますように。

気が早いようですが、また来年のプログラムも期待して待ちたいと思います。
いや、その前にプリンスの東京公演が7月に(^^;
楽公演は抑えてあるんだけどもう一回くらい見に行きたい〜。
お金ないのにどうしましょう。





*注1  イナバウアーとかイーグルはダンス振付的には「引き」だけど、スケート的には見せ場の一つ。「感情をスピードにのせて」スケートとしての特色を出すとは、このことを指していると思います。

*注2   「嬉しい」「悲しい」など直接感情を表すワードがないことも選曲の理由かもしれません。
町田樹の物語…言っちゃったよ、ビッグマウスで崖っぷちに追い込んだ (産経新聞)

*注3  ベジャールの来日公演時はプログラムを購入しない来場者にもプログラムノートを印刷したものが必ず配られ、開演を待つ時間それを読み、想像を膨らますのが何よりの楽しみでした。難解でわからないことの方が多かったのですが、町田くんのそれと同じく、言葉のチョイスの美しさが翻訳を通しても伝わる素敵なプログラムノートでした。
こちらは10年前の来日公演を見た時の自分のblog。(もう10年経つのか。しみじみ…)
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