バイオリンと外宇宙の話 vol.2

町田樹さんとシューベルト「継ぐ者」あるいは翼を広げることについて

フィギュアスケートの話題をひとつ♪

昔からフィギュアスケートは好きでテレビで観戦していたライトファンだったのですが、この4月から7月まで、なんと計3回のアイスショーに行って来ました!

生観戦デビューを思いたったきっかけは、昨年末の町田樹さんの引退です。
今見ておかないと今度はいつ見られるかわからないぞ的な感じで、ショー出演が決まった時焦ってチケット取りました。(笑)

私にとって町田くんは、長いこと「こういうタイプの人出てこないかな」って期待していて、「ついにキタ〜!!」って選手でした。

プログラムのコンセプトをしっかり持ち、バレエ的な、ある種演劇性のある作品作り。役柄の抽象性。
「今までのフィギュアの枠を飛び越えた作品を作りたい」「プログラムこそが自分の強み」との発言。
技術的に一つ一つのスキルを比較すれば、おそらく彼より優れた選手はいるのでしょうが、トータルとしての個性の力。そして振付、演出の才能。

技術や表現がようやくプログラムと噛み合ってきたと思われた、まさにその時の突然の引退宣言。
ショックでした〜。
GWからのショー出演のニュースで、思わずチケット争奪戦へ突入。
財布の紐も緩むことに…^^;

さて、4月のプリンスアイスワールド(PIW)横浜、6月のドリーム・オン・アイス、7月のPIW東京で見たのは、町田くんの3作目の自作の振付作品です。
シューベルト作曲「即興曲 作品90-3」全曲ノーカットの音源(5分40秒!)を使った、フィギュアのジャンプ全ての種類が入った作品。独自タイトルは「継ぐ者」。
作品のコンセプトは町田くんの公式サイトを参照。



以前の2作も、それぞれ違った味ながらも、見まごうことなく町田樹の作品として「スタイル」が確立されており、音取りのセンスに感動しました。
音取りは彼の一番の美点と思いますが、今回はそれ以上に楽曲のアナリーゼが完璧というか、彼自身が音楽であるかのような、一音も逃さず視覚化しているような作品でした。

森の中の小川に緑が写り込んでいるかのような照明。
ポール・ド・ブラの美しさを強調するような衣装。(照明デザインも衣装もご本人の発案なのでしょう)
冒頭の、白い鳥が羽を広げるような、水をすくい上げて自分自身にふりかけるようなシーンは、白いスポットライトと相まって、私がかつて見たフィギュアスケート作品の「印象的な始まり方」ナンバーワンだと思います。
初見ではここでノックアウトさせられてしまい、後の記憶がなくなっちゃいました。(笑)

公式サイトを見ると「シューベルトの晩年へのオマージュ」が作品発想のきっかけのようです。
たった31歳でこの世を去ったシューベルト。
その何年か前から体調不良に悩まされていたシューベルト。
この即興曲を作曲した時、自分の死期が近い予感を持っていたであろうシューベルトへのオマージュが、緑の森の中に舞う白い鳥という形で表現され、あまりにも儚く胸が痛くなるような、その一方、世界との一体感と希望も感じられるような…。

イーグルで世界を抱きしめ和解したあと、劇的な転調でルッツを飛び(*注)、異世界の扉を開ける。
傷ついた身体を横たえて、差し出したものは何だったのか…
もしかしたら緑の森はドイツ音楽の深い森であり、ピアノの奏でる6連符は森に流れる小川の音、時の流れであり、白い鳥は手負いの鳥か、ロマン主義そのものなのかもしれない。

また、この作品は同時に、フィギュアスケートと町田くん自身の歴史も語っているようなのです。
町田くんはジュニア時代に「白鳥の湖」オリンピックシーズンに「火の鳥」と、鳥に扮したプログラムを演じています。
そして引退の全日本、ベートーヴェン作曲の第九。ベートーヴェンからシューベルトへの継承をもちろん意識しての作品作りなのでしょう。
振付の断片やジャンプの入り方、抜け方なども、「エデンのアクセル」「第九サルコウ」というようにご自身の集大成のような趣もあり。
まるで何層にも重なったイメージの迷宮を見ているような振付です。

そして、なんといってもシューベルトの曲に町田くんはピッタリです。
静かなリリシズムというか、暗いオーラというか…。

6分弱のハードな作品を、計21回の公演をほぼまとめ上げ、いよいよPIW東京の千秋楽の日はジャンプノーミス!
今までで一番の出来!!
夢中で拍手しながら、その場にいられたことを本当に幸せに感じました。
会場内はまるで、去年の世界選手権の「エデン」の時のようなスタンディングオベーション。
町田くんがていねいに四方を向いてボウ(お辞儀)するたびに、東西南北で大歓声。

この作品は完結したんだな、そしておそらくは、この作品の最後の上演なんだなと感じました。

そして、去年の町田くんの引退で、彼のセカンドキャリアを応援しつつも私自身が一番胸が痛かった「第九が未完成に終わった」ことに対しても、ようやくストンと抜けた気持ちになりました。
ある意味第九は完成したんだなと。

第九の時彼が言っていたこと、「ジャンプのためにプログラムがあるのではなく、プログラムのためにジャンプがある」「ジャンプの配置ひとつひとつに意味を持たせている」「シンフォニック・スケーティングというジャンルを確立させたい」というのはこういうことだったのかと。
プログラムの理想形が、第九という競技プログラムで出来なかったことが、ルールから離れた今こそ出来たのだと。

フィギュアスケートではなく、アートスケートとでも言えるジャンルを見たような気がします。私にとっては、1980年代に初めてモーリス・ベジャールのバレエを見た時と同じ位インパクトのある作品でした。
ベジャールも自分の振付作品を「これでもう終わり」としばしば封印する人でした。その徹底的な未来志向主義と同じく、町田樹という人もきっと次の作品へ向かっていることでしょう。

ショーのフィナーレが終わってリンク上を周回しているとき、町田くんは涙ぐんでいたそうな。
私の位置からはわかりませんでした。
織田くんが踊りながら号泣していてたのは目の前でしたが。^^;

千秋楽だからこその涙だったのかな。
「シューベルトの晩年」という作品のテーマや、全日本のショートプログラムの涙を思い出して少し心配になりましたが、21回の公演をやり遂げてご本人も緊張の糸が切れたのでしょう。
そして千秋楽にあれだけパーフェクトに演じ切れたからこそでしょう。
そう信じています。

まだまだ見たいです!!
きっとまた会えることを信じてます!!
で、来年はバッハの無伴奏チェロかバイオリンなんかリクエストしたいです。
それは私が好きだからだけど。(笑)絶対町田くんにピッタリだと思うよ〜。



*注 劇的な転調(音を聞く限りは気づきにくい所です)
転調
(8/26追記)

10月3日のカーニバル・オン・アイスの公演で「継ぐ者」を最終公演にするとのアナウンスが公式ホームページにありました。

てことは、まだ来年も新作をひっさげて続けてくれるんだね!
いやーまだまだ楽しみは続くってことで、非常に嬉しいです!!
    17:19 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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