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バイオリンと外宇宙の話 vol.2

町田樹さんのボレロ

今年もGWがやってきました!そしてGWと言えば新横浜スケートセンターでのプリンスアイスワールド!
このアイスショーで、町田樹さんは必ず毎年新プログラムを発表します。

新プログラムはラヴェルの「ボレロ」でした。

最初2回見に行く予定だったのを追加で2回増やし、結局4回見に行きました。
お金があればもっともっと見たかった。10回でも20回でも見たかった。

学生時代、初めてベジャールの20世紀バレエ団を見に行った帰りに、フラフラと電車に乗り、乗客を見て「この人達はあのパフォーマンスを見ていないんだ。あんなすごいことが起こっているのに、知らない人が沢山いるんだ」などと考えたことを思い出します。

今回もそれに似た感情をいだきました。
それほど町田樹さんの「ボレロ」は凄まじいパフォーマンスでした。

一番好きなシューベルトの「継ぐ者」を見た時にも、初めて見たベジャールの公演を思い出しましたが、今回の「ボレロ」はそれに並ぶもしくは超える感動をいただきました。

また、今まで町田さんの演技だけを目当てに行っていたアイスショーでしたが、今回はプリンスチームの演技も素晴らしく、照明も強化され、ゲストとのコラボレーションもとても良かった。プリンスアイスワールドは「他のパフォーマンスと競うことの出来るエンターテイメント」になったのだと感じました。



●「台本」とベジャールリスペクト

公式「起源と魔力」

古の時代、まだフクロウの鳴く夜明け前、凍った湖で恐る恐るスケートを始めた男がスケートと踊りに魅了され、日の出と共に氷の下へ沈んでゆく。というストーリー。
このストーリーが、コンパルソリー、ステップ、ジャンプとフィギュアスケートの歴史をなぞって展開していきます。

この「フィギュアスケートでしか、氷の上でしか表現できないストーリー」いわば「台本」を着想したからこその、満を持してのボレロだと思います。

そして、町田さんのボレロはベジャールリスペクトでした。

実は私が町田さんに俄然興味を持ちはじめたのは、ソチシーズンの「火の鳥」の時。TVで「バレエ・リュス、ベジャール、ジョルジュ・ドンが僕のモチーフになっている」という発言を聞いてからです。

ドンの火の鳥なんて大昔の、よく知ってるな〜。私でも知らないのに。
あ、もしかしたら動画で見られるのかな?
検索したら某動画サイトでベジャール「火の鳥」があるじゃないですか。
「町田さんのおかげだ、ありがとう」と大感謝。

それ以来ずっとテレビで応援してたんですが、ソチ後の世界選手権ですっかり落ちました。
引退後、初アイスショーに通うようになったのも町田さんのおかげ。
んで、今に至ると(笑)

それはともかく、インタビューや発言内容、長い長い題名とか、プログラムノートとかからも、町田さんは筋金入りのベジャール研究家と推測されますw

今回の「ボレロ」はそのベジャールへのリスペクトとして、確固とした「台本」の上に、要所の「アクセント」として振付が入っています。

以前インタビューで「フィギュアスケートはバレエが源流だがヒップホップとかジャズとかいろいろなジャンルを取り込んで豊かになった文化」だと町田さんがおっしゃってましたが、このボレロはまさに、クラシックではなくモダンバレエ(コンテンポラリー)を吸収して新しい表現を進化させようとしているように感じました。

何人ものトップスケーターが出演している中、彼だけがまったく違う身体の使い方に見える。でも間違いなくフィギュアスケートであるという…。
考えられないような個性です。

●室内劇と宇宙

ベジャールのボレロは、初演のころと最近のものではだいぶ演出も変わってきていますが、テーブル上の「メロディ」と下の群舞「リズム」の細かい駆け引きなど、基本的に室内劇のテイストがあるかと思います。

それに対し町田さんの「ボレロ」は、オペラハウスよりはるかに大きい、四方向から見られる大空間での、リンクの天井までも使った大掛かりな照明を駆使し、夜から日の出という時間軸の設定のパフォーマンスでした。
「台本」では自然、湖、フクロウのいる森という設定ですが、もっと言うと宇宙を感じました。
音楽がフォルテッシモになる最後の数小節で全ての照明がリンクを灯し、その中で迎える死。

この全編クレッシェンドで出来ている音楽を、最初はコンパルソリーでゆっくりと、徐々にスピードが増していく、その緩急の付け方。スケートリンクいっぱいに凄まじいスピードで盛り上がっていく迫力。こればっかりはバレエでは出来ないフィギュアスケートでしかできない迫力です。その恐るべき技術。8分という長尺での体力配分もどんなに難しいことでしょうか。


●ジョルジュ・ドンについて

町田さんのボレロは衣装といい髪型といい、「男性による」ボレロを意識してると感じました。
最近ではギエムのボレロが有名ですが、ジョルジュ・ドンは(火の鳥の時に名前をあげていたので)当然彼のボレロを何回も見ていると思います。

ドンはボレロが一番有名ですが、私が最高傑作と想像しているのは「ニジンスキー・神の道化」です。
「想像してる」というのは、この作品はベルギーのサーカス・シアターで演じられ、来日公演の演目になかったために一生見る機会を失ってしまったのです。(ベジャールは作品をオペラハウス以外で発表することもあり、その「場」にこだわりがあった。おまけに封印癖もあった)
わずかに写真集でその壮大なパフォーマンスを想像するのみ…。

しかし、1990年にこのニジンスキーは芝居として蘇るという復活を果たしました。
ジョルジュ・ドンと、シーペ・リンコヴスキーという女優さんの二人芝居です。
初演当時のニジンスキーの踊りや今までドンが演じてきた演目が再編成されてニジンスキーの日記をテキストとした劇中で演じられました。
来日公演もありました。



この中にはマーラーの交響曲第5番のアダージエットによる素晴らしいソロもあります。
終盤のキリストの磔刑とニジンスキーの狂気を重ねて表現したドンの演技は凄まじいとしか言いようがなく、演技を終えて放心状態になっているドンが観てとられます。

この2年後にドンは亡くなりました。

ベジャールの回想録「誰の人生か?」では、ドンの死について断片的にことばが書かれています。

「ドンはなんとしても力尽きるまで踊り、恍惚状態に達しなければ納得しなかった」
「疲れたときにこそ、彼の最高の部分を発揮出来たのだ」
「彼は舞台の上で死にたがっていた。だが、彼は病院で死んだ」

ジョルジュ・ドンの死と、何より2007年のベジャールさんの死であまりバレエを見なくなった私ですが、町田さんの今回の「ボレロ」の「氷上舞台での死」によって、2人の死について何かカタルシスを得たような気がします。

町田さん、素晴らしい作品をどうもありがとう。

(そしてGW終わって、予想通りですが抜け殻になっとります。バイオリン練習せねば…)



↓はプリンスアイスワールド2018の町田樹さん密着ドキュメンタリー
メイキング・ボレロとも言える貴重な映像


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Author : kero

◯十の手習いでバイオリンを始めて十数年目!
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