バイオリンと外宇宙の話 vol.2

町田樹さんの「白鳥の湖」ジークフリートとその運命

今年も仕事でJOとCaOI行けなかったんですが、先日CaOIのTV放送がありました。
町田さんの新作が「白鳥の湖」だと伝わってきたときはびっくりしました。PIWのときのオープニング衣装と振付から「海賊」が来るかな〜と思ったら全然違いました(笑)

町田さんはいつも新作披露の直後に公式HPに作品解説をアップしてくださるのですが、それをみて2度びっくり。
「ストーリー」が書いてあり、「氷上舞踊劇」と銘打っているのです。明らかに今までとは違うアプローチ。

公式ホームページ

以下、もっぱら舞台演出的観点から感想を述べたいと思います。

バレエの技法と比較したり、スケートの技術観点から感想を書いてらっしゃる方が多いのですが、私はムーブメントに関しては「音楽的か魅力的かそうでないか」くらいしかわからないので(笑)
例によって見当ハズレなこと書いてる可能性大ですがお許しを〜

で、感想ですが…

やっぱり町田さんすごい!
音楽的だった、そして魅力的だった!(笑)
面白かった!!



●照明の重要性

公演後、怒涛のようなTwitterの感想で見聞きしていた「素晴らしい照明の演出」が、放送では伝わりにくかったのが少し残念です。
2幕目の宮殿の描写でフットライトを上に向けて柱のように見立てたり、真っ赤なライトを観客席一面に当ててオデットの悲劇を暗示したという演出を楽しみにしていました。
引きの映像も欲しかった。

ですが、映像でも町田さんの表情はたっぷり楽しめましたし、ジークフリートがオデットのあとを追ってリンクを突っ切って走っていく時の、リンクのみに当てた白いスポットの美しさは映像でもよくわかりました。

町田さんはインタビューで振付は空間の占有率を一番気にしていると仰っていましたが、今回はライトの演出によって特に広いさいたまスーパーアリーナの縦方向の空間も意識している作品と感じました。

実はこの3年ほどPIWを見に行って感じることは、群舞の構成の問題と、それ以上に照明の重要性です。
大掛かりなセットを使わないアイスショーでは照明こそが演出の要であり、また演出が今のアイスショーに求められるている要素と思います。
町田さんのプログラムが好きなのも、1つには照明の使い方が素晴らしいことです。

●「生きる歓び」と「ジークフリートの死」

プログラムで最も時間をとっているのが「終曲」を使った第三幕。第二幕はそのための筋書きの布石的な役割なことを考えると、町田さんがあらかじめ「ジークフリートの死」から作品の発想を持ったのだと推測できます。
そういえばジュニア時代の「白鳥」でもこの終曲を使ってますね。
2幕目以降急ピッチで死へ向かう終曲までの尺とバランスを取るために、最初に無人の序曲を入れる構成にしているのだと思います。

またSNSで、町田さんは(年に2プロ作るときは)テーマを裏表にしてくると書いている方がおり、なるほどと目が醒める思いです。
つまり、去年の「あなたに逢いたくて」と「アヴェ・マリア」はエロスとアガペー。
今年の「ドン・キホーテ」と「白鳥の湖」は生と死。と捉えられるのですね。

2つの作品で感じたことをまとめてみました。

作品比較

●役柄を演じるということ

タイムリーなことに、この前 放送大学「舞台芸術の魅力」について書いたばっかりなのですが、その中でも触れられていた「ストーリーのないバレエ」「ストーリーのあるバレエ」。今回の場合は後者に当たる作品です。

誓いを立てオディールに裏切られるシーン、絶望で膝をつく所、赤いライトに照らされて後ろ向きにルッツに向かう所、オデットを追いかけて光の道を滑走する最後のシーンなど、町田さんの魅力全開。それは、舞踊に加えて「役柄」を演じる魅力が加わるから。
悲劇によるカタルシスは、バランシンを代表とする「ストーリーのない舞踊」ではまず味わえないのではないでしょうか。

モーリス・ベジャールの言葉だけど、「役を演じることによって”何か”が忍びこむ」って現象こそは舞台芸術の醍醐味であり、演劇ジャンルでの一人芝居をスケートで、6分間に凝縮するというなんとも斬新な試み。

今までの町田さんのプログラムではどちらかと言えば役柄は抽象的で、固有名詞のつかない役(role)だったのに対して、今回ははっきりと「氷上舞踊劇」の中の固有名詞のつく役(character)。
バジルもcharacterですが、あちらはそのcharacterを3つの要素に分解した3つの舞踊だったのに対し、こちらは時系列に3幕のストーリーに沿ってジークフリートというcharacterが変化していく、まさに劇的表現としての舞踊。

●ストーリーの「余白」

最初は町田さん公式の筋書きにそってプログラムを鑑賞していました。
が、しばらくすると、筋書きだけでない「余白」があるのではないかと感じ始めました。

まず、バレエに出てくるオデット以外の白鳥の娘達、結婚候補の姫たちなどはばっさりカットされており、町田版では「ジークフリート」、彼の外側にある存在として「オデット」「オディール」「ロットバルト」のみ。
しかし、第一幕はとりわけジークフリートがオデットと一体になるかのような振りがあり、公式で「ロットバルトは”彼の運命”」と書かれていたりします。

深読みすると、ジークフリートの実は内側こそに「オデット(理想の愛)」「オディール(現世の欲望)」「ロットバルト(彼の運命)」が存在するとの解釈も成り立つのではないでしょうか。
町田さんの公式にあげてある「白鳥の湖」の系譜、ノイマイヤー、マッツ・エック、マシュー・ボーンはいずれもそういうアプローチをしています。

個人的に舞踊など無言劇の良さとは、意味を与えられる台詞のある演劇と違って、より解釈の自由を含んだ「余白」があることなので、いつも癖でつい深読みしちゃうんですが(笑)
考えすぎかな〜。


●未来のアイスショーへの展望

今年6月に上演された歌舞伎とアイスショーのコラボレーション「氷艶」は、私はTV放送を見ただけですが、アイスショーの一つの形として大変面白い舞台でした。
豪華な衣装とプロジェクトマッピング、アイスリンクの一面を白いスクリーンで覆って3面の舞台にして作られたものです。こちらは歌舞伎の歴史の中で精錬された演出技法を用いたもので、セリフをも用いた演劇です。

一方町田さんの氷上舞踊劇は、いつものゲストを呼ぶ(競技会後のエキシビション形式の)アイスショーの割当の中で(他の人より数分長いプログラムであるものの)照明と、小道具の一枚の羽を使っただけのもの。
こちらはアイスリンクの360度観照ということをふまえての作品で、舞踊としての無言劇です。

どちらも演出重視という未来のアイスショーの可能性を感じるアプローチですが、町田さんのはスケーター側から提示した演出可能性のありかたであり、アイスリンクを活用した総合演出の未来への布石かもしれません。
6分間の作品は感覚や即興で作れますが、2時間の舞台作品はコンセプトと構成力なしには作れません。
今回町田さんがストーリーを表現する試みに挑戦したのは、こうした未来を見据えてのことではないでしょうか。…願望がだいぶ入ってますが(笑)

期待を込めて、町田さんの今後の活躍を見守りたいと思います。
    15:42 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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